放言

その場所を通りがかった時、ひとりの奴隷がそばに来て鎖を見せながらこう言った
「どうです、この鎖。立派でしょう」
たしかにその鎖は金ピカで実に見事なものだった
彼は他の奴隷を指差してこうも言った
「あいつの鎖を見て下さいよ、鉄でできた鎖なんてみっともないったらない」
その奴隷の鎖は見るからに錆びてボロボロで、いまにもちぎれてしまいそうだった
彼は自分の鎖がいままで見たどの奴隷より太く立派に光り輝いていることがとても誇らしい様子だったし、みずぼらしい鎖をつけている他の奴隷には、まるで汚らしいものでも見るかのような侮蔑の眼差しを向けるのだった
しかし彼の鎖はどの奴隷よりもしっかりと首にはまっていて、見事ではあるがずっしりと重いその鎖のせいでどの奴隷よりも動き辛そうであった
私は不意に悲しくなってそそくさとその場を離れた


きっと今でも彼はあそこに繋がれているのだろう。あの立派だった鎖も今では朽ちてボロボロになってしまっているのか、まだキラキラと光っているのか、あれから二度とそこを訪れることはないのでわからない。ひょっとしたら彼より立派な鎖を持つ奴隷があらわれて失意の日々を送っているのかも知れない。しかし彼がまだ奴隷のままでいることは間違いないだろうと思う
あの誇らしげで、いかにも得意そうな彼の顔を思い出すたび私は悲しい気持ちになるのだ