トライアングル(2009)

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この映画は前情報一切なしで見た方がいい


以下ネタバレ
いわゆる無限ループものというか"さまよえるオランダ人"というか
よくあるループものと違うのは時間軸の異なる3人の同じ人物が重なって登場するところ
どれも同じ自分であるはずなのに時間軸ごとにそれぞれの意志や思惑が異なっていてお互いに対立する羽目になるのが面白いところか
謎なのはこの主人公が通ったルートともう一つ別のパターンがあって、そちらは特に触れられていない点
どちらのパターンでも共通して通るポイントがあるわけだが、2つのルートを合わせてループが完成しているらしい点


イベントを時系列で書き出すと

  • ジェス(主人公)が家を出る
  • ジェスが桟橋へつく(この時点でシーンの連続性が途切れていることがあきらか)
  • ヨットに嵐が近づく中、グレッグは謎の救難無線を受信するが途切れてしまう
  • 嵐でヨットが転覆(ヘザー死亡)
  • 通りがかった客船に乗り込む
  • 通路で物音を聞いたヴィクターが見に行くと鍵束が落ちているがそれはジェスの鍵束だった
  • 全員が食堂へ。ヴィクターに時間を聞かれたグレッグは11時半と答えるがジェスの腕時計と食堂の壁時計は8時16分を指している
  • ジェスが見た人影を追ってヴィクターは船内を捜索しに行く
  • ジェスは船長を探しに出たグレッグを追って食堂を出る
  • ジェスとグレッグは237号室の鏡に書かれた「劇場へ行け」という血文字のメッセージを読む
  • ジェスはグレッグと別れ食堂へ行くがダウニーとサリーの姿は無く料理は腐っている。そこへ血塗れのヴィクターが現れ襲われる
  • ジェスが劇場へ向かうとグレッグは死んでおり、サリーに「お前がグレッグを殺した」と責められる
  • 謎の殺人鬼(実はこれもジェス、ジェス0とする)が劇場の2階席からショットガンでダウニーとサリーを殺す(パターン1)
  • ジェスが殺人鬼と戦い、殺人鬼(ジェス0)は「彼らを全員殺せ」と言い残して船から落ちる
  • レコードの針を戻すと外から声が聞こえ、ジェス(これをジェス2とする)達を乗せたボートが近づいてくるのが見える
  • ジェス2達から隠れていたジェスは鍵束を通路で落とし逃げる
  • ジェスは鏡に書かれた「劇場へ行け」という血文字を見る
  • ジェスはダウニーの死体が海に浮かんでいるのを発見
  • ジェスはヴィクター(ヴィクター2)に警告しようとするが逆に致命傷を与えてしまう
  • ジェスはツナギとショットガンを発見、床に残されたメモ("彼らを全員殺せ")と金網の下に落としたペンダントによってこのループが何回も繰り返されていることがわかる
  • ショットガンを持ったジェスが食堂に行くとジェス2を発見する。ジェス2に銃を向けるがジェス2はどこかへ逃げて行った
  • 劇場に向かうとグレッグ2が死んでいて、2階からまた別のジェス(これをジェスXとする)に撃たれる。ジェスはショットガンで反撃しダウニー2とサリー2と共に劇場を出る(パターン2)
  • ダウニー2にショットガンを渡し食堂に戻るとヴィクター2の姿はなく血の跡が船外まで繋がっている
  • ダウニー2とサリー2は237号室でジェスXに刺されダウニー2は死亡、銃声を聞いたジェスは腹を刺されたサリー2を見つけ後を追う
  • サリー2は逃げる途中で無線で助けを求める。ジェスも無線でグレッグに呼びかけるが応答はない
  • サリー2が逃げた先にはサリーの死体がたくさん固まっていていくつかの死体は既に腐敗し始めている
  • ジェスは他の死体がそうなっているのと同じようにサリー2の腹に来ていた服をあてがう
  • ジェス2がジェスXを殴り殺して船から落とすのを目撃
  • サリー2が死ぬとジェス3を乗せたボートが近づいてくる
  • ジェスはダウニー2とグレッグ2の死体を海に捨て、237号室の鏡に「劇場へ行け」というメッセージを血で書く
  • ジェスはジェス2がヴィクター3に致命傷を与えるのを目撃し、ジェス2が去ったあとでヴィクター3に「ループを出る方法がわかった」と告げる
  • ジェスは食堂に行き、ダウニー3とサリー3に「劇場へ行け」と指示する
  • ツナギを着て袋をかぶりショットガンを持ったジェスは劇場の2階でグレッグ3を射殺
  • つづけてダウニー3とサリー3を射殺するがジェスに逃げられる(パターン1)
  • ジェス3を追い詰めるが反撃され船から落とされる
  • 目が覚めると海岸におり、家に戻るともう1人のジェス(ジェスα)と息子のトミーがいる
  • ジェスαがトミーを虐待しているのを見たジェスはジェスαをハンマーで殺害、死体を車のトランクに詰めトミーと共に車で学校?桟橋?街の外?に向かう
  • 車を走らせているとフロントガラスに鳥が激突する
  • 鳥の死体を捨てに行くとそこにはいくつもの鳥の死体が転がっており、これもまたループしている世界の一部であることが明らかになる
  • 息子をなだめようとして対向車線にはみ出したジェスの車は横転して大破。トランクに入っていたジェスαの死体は外に飛び出し、息子のトミーは死んでしまう
  • 呆然と立ち尽くすジェスにタクシーの運転手が話しかけ、ジェスはタクシーで桟橋へ
  • 「子供はどうしたんだい?」とヴィクターに聞かれたジェスは「子供は学校にいるわ」と答え、再びヨットに乗り込むところで映画は終わる

どういうループになっているのか

映画の中には全部で6人のジェスが登場する

  • 冒頭と最後に登場し、ジェス1に2度殺されるジェスα
  • 主人公のジェス1
  • 最初に謎の殺人鬼として登場し、海に落とされるジェス0
  • ジェス1の次に船に乗ってくるジェス2
  • ジェス2達を襲うジェスX
  • ジェス1を船から落としたジェス3


ジェス1が殺したのは

  • ジェスα(トミーへのセリフにはあるが描写はない)
  • ヴィクター2
  • ジェス0(海に落としたが死んではいない)
  • グレッグ3
  • ダウニー3
  • サリー3
  • ジェスα(2度目)

ジェス1が死体を処理したのは

  • ダウニー2
  • グレッグ2

で、異なるループの人物の殺害と死体処理を異なるループのジェスが分担して行っている
ジェスαはループの最後に殺されて死体として消えるので実はループの中には存在していない

イベントのパターンも2パターン存在し

  • パターン1:劇場でダウニーとサリーを撃ち殺すジェス

  • パターン2:劇場で反撃されダウニーとサリーを刺し殺すジェス

という2つのパターンの異なるループが存在している

つまりこの映画では2パターンのジェスのループが2つ並行して存在していることになる

パターン1のジェスは

  • ジェス0
  • ジェス1
  • ジェス3

であり、パターン2のジェスは

  • ジェスX
  • ジェス2

となるはずで、ループの順番としては
ジェス0→ジェスX→ジェス1→ジェス2→ジェス3
となるので1つおきに2つのパターンを繰り返していることになる
ということはジェス1が乗船したとき既にジェス0が船に存在していたのは間違いないが同時にジェスXも既にどこかに隠れ潜んでいたということになる


映画はパターン1しか辿っていないため、パターン2の具体的な行動については明確な描写がないがヴィクター2についてジェスXは「海に落ちて死んだわ」と言っているのでヴィクター2の死体を海に捨てたのはジェスXと思われる

謎・疑問

鏡の謎

ジェス1がジェス0を海に落とした後、レコードプレーヤーの針を戻すが、その後のシーンでは鏡の中を通り抜けて世界が反転していることに気付いただろうか
ジェス1を乗せたヨットは客船の左舷側から近づいているがジェス2を乗せたヨットは右舷側から寄ってきている
前述のパターンに照らし合わせるとパターン1のジェスは左舷から、パターン2のジェスは右舷から来る、ということになる
しかしその後のシーンで特に反転した世界を示唆するものは出てこないし、シーンのどこかが反転しているということもないので設定としてはやや疑問な部分である

ループ構造の謎

船の上だけを見ていれば次々と新しいトライアングル号と新しいジェス達が乗ってくるように見えるが、ジェスの視点では同じイベントをずっと周回しているだけ、ということになる
普通のループものでは(ループしていない世界から来た)過去の自分がどんどん供給され、自分自身はループのどこかで消滅するわけだが(でなければ自分が増え続けてしまう)、この映画で唯一過去と繋がっているジェスαは(自動車事故がループの終点だとすると)イベントループの最後に殺されてしまっているのでジェスα視点では常に別のジェスに殺されたところで物語は終わっていてループに供給されることはなく、一方でループしているジェスは消滅することがないのでいつまでもループしている(しかしジェスのペンダントと上着だけはジェスαから切り離されてループに供給される)
しかもジェス1が客船に乗ってから海に落とされるまでの間(つまりジェス1にとっての1ループの間)にジェス1自身が乗ってきたヨットを除いて2隻(ジェス2、ジェス3)のヨットが到着していて、客船上には最大で3人のジェスが同時に存在している
つまりジェス1が1ループする間に、「ジェス以外の全員が死ぬ」というサブループが3回発生している
ということは、ループに参加していないジェスαを除いても最低4セットのループするジェス達とその世界が存在するのでなければループが成り立たない

スタックするオブジェクトの謎

映画の中ではループによってリセットされずにスタックするオブジェクト(ジェスが書いたメモ、ジェスのペンダント、サリーの死体、鳥の死体)が描かれているので、少なくとも有限回前に遡った時点からループが始まっていることは明らかなわけだが、ループが始まった時点で既に先行するループのジェスが存在しないとイベントが進まない
イベントが進まなければ(誰もジェス以外の乗員を殺さなければ)ループが回らない
ということは最低4人のループするジェスのうちの何人かはイベントの途中からそれまでは発生していないはずのイベントの記憶を持ってループをスタートさせていることになる
そうでなければ辻褄が合わない


また、オブジェクトの一部がスタックしてしまうということは、ループをどんどん回していくといずれどこかで限界が来てイベントの進行に支障をきたし、最終的にはループがクラッシュすることになる
たとえばサリーの死体がどんどん溜まっていって船からあふれるとか、メモがどんどん溜まっていって部屋に入れなくなるとか、ペンダントが金網からあふれ出すとか、鳥の死体が山になって海岸や道路を埋め尽くすとか
つまりこのループは無限ではあり得ないということになるが、最大スタック数を超えたオブジェクトは消滅するなどの処理が発生している可能性はあるのかもしれない

ジェスの記憶はどの時点でリセットされるのか

普通のループものではループに供給されるのは過去の自分なのでこれから何が起こるか知らないのが当たり前だが、この映画のジェスは同じ周回を何度もしているのでどこかの時点で記憶がリセットされていなければならない
ジェスの腕時計が8時16分で止まっていることを考えると車で事故を起こしたときからジェスの時間は止まっているとも考えられるが、ジェスはヨットに乗る前に「子供は学校にいる」と嘘をついているし、ループを進めるため(子供に会うため)に積極的にヨットに乗ろうとしているように見えるのでヨットに乗った時点ではそれまでのイベントの記憶を失っているとは考えにくい
しかし客船に入ったときには「わたしはここを知っているかもしれない」と言っていて何が起こるか分かっていない様子なのでヨットに乗ってから客船に移るまでのどこかの時点で記憶を失っていると思われる
おそらく転覆した時と考えられるがはっきりとはしていない
いずれにせよループのリセットと記憶のリセットのタイミングが一致していない

ジェスの不可解な行動

また、ジェス1がジェス3を追い詰めたとき、その後なにが起こるのかジェス1は知っていたはずなのに同じ行動を繰り返している
ジェス1はジェス3の行動を予測できるはずで、本当に殺すつもりであればできたのになぜそれをしなかったのか
記憶は一度リセットされているはずなのでジェス3によって海に落とされればまたイチからやり直せるとジェス1が知っていたとも思えない
また、ジェス1がジェス3を殺すと何が起きるのか

タクシー運転手の謎のセリフ

事故のあとジェスをヨットハーバーに送ったタクシーの運転手はジェスを降ろすとき「ここで待っているよ」と言い、ジェスも必ず戻ると約束する
つまりタクシーの運転手はループの存在を知っていることを示唆しているが、先に示したように最低でも4つの並行世界にそれぞれのジェスが存在しているためにこのタクシー運転手も4つの並行世界のそれぞれに存在しているということになる

消える血と消えない血の謎

ジェス1とグレッグ1は鏡に血で書かれた「劇場へ行け」という文字を目にしている
つまり血で書かれた文字はループをまたいで存在できる
しかしもし血痕などが次のループにも持ち越されるのだとすると前のループでジェスがダウニーやグレッグやヴィクター達の死体を海に捨てるために引き摺った後が床に残っていなければならない
しかも既に相当回数のループをこなしていることがスタックしたオブジェクトによって分かっているため床は死体を引き摺った後で血塗れになっていなければおかしいだろう
そうなっていないのは、ある痕跡は残し、ある痕跡は消す、というような選択的なリセットがかかっていることになる
鏡に書かれた血文字もどこかの時点でリセットされているはずだがそれがいつなのかははっきりとはしていない

食堂の料理はいつ腐敗し、いつ元に戻るのか

食堂に置かれている料理についても同じことが言える
ジェス1がグレッグ1と食堂を出て、戻ると既に料理は腐敗している
しかしジェス1が海に落とされる間にジェス2、ジェス3の一行が食堂を訪れているはずで、これもどこかの時点でリセットされているはずだ

ジェス2の行動の空白の謎

ジェス2はジェス1に銃を向けられて食堂からどこかに逃げて行き、その後ジェスXを殴り殺して海に落としているが、ジェス1がサリー2を追いかけている間に何をしていたのか
ジェス2がヴィクター3に致命傷を負わせたあと、ジェス1がグレッグ3、ダウニー3、サリー3を殺し、ジェス1とジェス3が戦っている間何をしていたのか

ジェスの鍵束の謎

ジェス1は通路で拾った鍵束を渡され、それをまた落として次のジェスに拾われるわけだが、この鍵束はいったいどこから船に来た?
客船に来た時点で鍵束を持っていなかったのだとするとこの鍵束だけが船の中をグルグルしていることになるし、最初に誰が鍵束を持ちこんだのかが謎である
ジェスが鍵束を持って客船に乗ってきたのだとすると拾ったときに鍵束が2つになってしまうがそういう描写はない
ひょっとしたらパターン2のジェスが鍵束を持ちこんでいるのだろうか


あとどうでもいいことだが、特になんの役割も果たさず死んだヘザーの存在が謎ではある
あいつ出す意味あった?

解釈

船の名前について

まずヨットの名前は「トライアングル号」、客船の名前は「アイオロス号」
「トライアングル」という名は"魔の三角地帯"、"バミューダ・トライアングル"を連想させるし、同時にアイオロス号に同時に3人のジェスが存在していることの暗示なのかもしれない
そして「アイオロス」については劇中でも触れられているがテッサリアの王であり、コリントス王シーシュポスの父の名で、このシーシュポスは神を2度だまして死を免れたために罰として巨大な岩を山頂まで押し上げるという罰を永遠に繰り返すことになる
アイオロス号の写真について1932年という年号についても触れられているがこれについては特になにかの伏線というわけでもなさそうだ

ジェスの罪とは

映画の終わりの方にも描かれているように、ジェスは自閉症児の息子トミーを1人で世話する生活に疲れ切っていた
きっとその時に「息子を愛する良いジェス」と「息子を憎む悪いジェス」に分離したのだと思われる
ジェスの罪とは「息子を愛せなかった」ということ「グレッグとの新しい生活を夢見てしまった」ということではなかったか
ジェスαの死体をトランクに積み、息子を乗せて走り出したときジェスがどこに向かっていたのかはっきりとした言及はないが、看板からすると息子と2人で街を出て行くつもりではなかったのか
しかし事故で息子を失ってしまい、もう一度ループをやり直すために桟橋へと向かう
だがタクシーを降りるとき、ジェスはもう一度ここで戻ってくると運転手に約束をしている
ジェスが本当に「次こそはうまく行く」と思っているならそんな約束はしないのではないか
ジェス自身がこの予定調和を望んでいるということになる

ありそうな解釈

食堂で働くウェイトレスであるシングルマザーのジェスは彼女に気のあるグレッグから彼のヨットでのクルージングに誘われる
しかし当日の朝、ジェスとトミーを乗せてヨットハーバーへと向かう車は事故を起こし2人は死んでしまう
ヨットハーバーに現れたのはジェスの幽霊だった
さまよえる亡霊となったジェスはいつまでも終わりのない航海を何度も繰り返すのだ
アイオロス号から落とされ、家に戻ったジェスが自分を殺してしまうのはそれだけ強い後悔の念があるからだろう
なぜ生きているときにもっと息子を愛することができなかったのか、グレッグの誘いを承諾しなければこんな事故に遭うこともなかったのに、と
だからジェスの時計は事故を起こした時間で止まったままになっているのだ
つまりこのループ自体がジェスのけして終わりのない後悔(ダジャレじゃないよ)の象徴である


一つ一つを突き詰めて考えるとジレンマというか「なんでだ」と思ってしまうが、「ま、人生って不条理だよね」で終わらせるのが正しいのかこの映画の場合は
ループものでありながら独特のループ構造を持っているところがこの映画の面白いというか一筋縄ではいかないところではある
おそらく現実世界においてもグレッグたちのヨットは嵐に遭って沈んでしまったのだろう
そういう意味ではヨットの全員が亡霊であるとも言えるし、であるならば些細な設定の違和感など問題ではないのかもしれない
彼らは同じイベントを何度も何度も繰り返す亡霊の世界にいるのだから
映画の中のジェスはなんとかしてこのループを抜け出して息子のトミーと2人で暮らしたいと望んでいるが、それが叶うことは永遠にないのだ