人肉ハンバーグはマンガ『封神演義』に出てくるエピソード
マンガでは文王(姫昌)を助けるために子の伯邑考が妲己を訪ねた際、贈り物の猿が妲己を傷つけたカドで処刑されてハンバーグにされてしまう描写になっている
原作にあたる明代の小説『封神演義』では隗肉刑(凌遅刑)にされてから肉餅(ローピン)*1にされたとなっている
小説『封神演義』の元ネタにあたる『史記集解』(しきしっかい)*2に出てくるお話では醢刑(かいけい)*3の後、釜茹でされ羹(あつもの)にされたことになっている
似たような話としてマンガ『ヒストリエ』にも王の機嫌を損ねて調理された我が子を食わされるハルパゴスのエピソードが出てくる
文王が我が子の肉であることを知りながら口にしたのに対し、ハルパゴスの場合はそれと知らずに口にしたあとに知らされたという違いはあるが、「子を食わされたけど耐えて臣従し信頼を得た後に蜂起する」というパターンとしては良く似ている
ややシチュエーションは異なるが「子の肉を親に食わせる」点で似た話としてはシェークスピアの戯曲『タイタス・アンドロニカス』とその下敷きになったであろうセネカの悲劇『ティエステース』がある
『タイタス・アンドロニカス』ではローマ帝国の将軍タイタス・アンドロニカスが復讐のために王の后タモーラにその息子2人の肉をパイにして食わせるという逆パターンにはなっているが、忍従のために自分の片手を差し出し、後に敵方と通じて蜂起を起こす部分は少し似ている
さらにその下敷きと思われる『ティエステース』では、王位を巡って争った兄弟のアトレウスにアトレウスの妻と姦通したことに恨みを持たれてティエステースが我が子の肉を騙されて食わされたことになっていて、どちらかといえばハルパゴスのパターンに近い
史実上では文王は紀元前11世紀、ハルパゴスは紀元前5世紀の人ではあるが、物語が成立した年で考えると司馬遷が『史記』を成したのが紀元前1世紀、ヘロドトスが『歴史』を書いたのが紀元前4世紀、『ティエステース』の元となったであろうギリシャ神話は遅くとも紀元前8世紀、『封神演義』と『タイタス・アンドロニカス』はどちらも16世紀である
メディア王国の将軍であったハルパゴスが反乱を唆した結果メディアを打倒して成立したのがキュロス2世を王とするアケメネス朝ペルシアであり、その帝国の支配がギリシャの対岸からガンダーラまで及んでいたこと、紀元前2世紀にはシルクロードによって中国との文物の交易がおこなわれていたことを考え合わせると、ハルパゴスの裏切りの理由の描写にティエステースのエピソードを援用し、それが中国にまで伝わって『帝王世紀』に記述された可能性も皆無ではない
現王権の正当性と威を示すために打倒した先王をことさら暴虐に描くというのはよくあることだろうから、暴虐ぶりを示すエピソードとして「我が子の肉を食わせる」というのは持ってこいだったろう