無限雪崩爆撃

どこぞでWCM、北海道ではカムイと他所は楽しそうな3連休の金曜。前夜出る筈が相方が寝床に沈して朝集合。パッキングも遅れ、出たのは昼前。駐車場に15時かそれぐらい。羽毛のような降雪。雪がフワフワとしている。
駐車場に富山ナンバーと香川ナンバーの車が1台ずつ。荷台を覗いた感じ2台とも山屋だろう。雪のつきかたをみると香川が前夜か今朝早く。富山は今朝過ぎてからの到着の模様。
ひさしぶりに20kg近く背負ってのアプローチでひいこら言いながら岩小屋まで。途中で2人のPTとすれ違う。時間的に様子見しての敗退か。条件はかなり悪そうだ。急いでいるようだったのでどこかに転進するのかもしれない。雪深く、ところどころ雪崩れてさっきすれ違ったばかりの2人のトレースも消えかけている。渡渉ポイントもほとんど雪に埋もれている。渡渉を過ぎてからスノーシュー装着。トレースを外すと腰までの雪。いつもと違い北沢との出会い付近で対岸に渡るトレースに従い、対岸側を沢沿いに遡上。かろうじてトレースはあるが雪深く難儀する。既に暗い。最初星かと思ったがはるか上方の岩壁にヘッデンの明かりがまたたいているのが見える。時間切れ敗退で懸垂中なのかと思ったがどうやら違ったようだ。岩小屋に着くとBDのテントがデポってある。岩壁のPTのものだろう。
ストックを岩と雪に突っ張ってツェルトを張る。メスナーと違って、ツェルトだと荷物を置いても足をじゅうぶんに伸ばせるスペースがある。天ぷらうどん食って20時就寝。まだ奴らは帰ってこない。いつまで登るつもりなのか。
2時間ほど熟睡して目が覚める。奴らが帰ってきたようだ。時間はわからないが22〜23時ごろか。初日からヘッデン行動とはすごい気合いだ。それからなかなか寝付けず1時間ほどの浅い眠りを繰り返す。2時すぎに相方も寒さで起きてしまった。今回はちゃんと寝袋を持ってきているというのにちっとも快適じゃない。なぜなんだろう。眠れそうにないのでバーナーに火を入れる。とりあえず4時ごろ出発して明るくなるころ取り付き、と決める。
取り付きまでは岩小屋から直登。トレースはしっかりついているが息が切れる。肺活量が足りていない。息がつまる。取り付き前でさらに傾斜はきつくなり、雪もさらに深い。途中に昨日の2人のデポ。あの時間まで登っていてデポする気力が残っているとは驚きだ。やる気まんまんじゃないか。ついてみるとまだ暗い。標高1835mとの表示。時間は6時。下界の明かりが見える。空はうっすらと白みはじめている。少し待つと明るくなってきたので3ルンゼを偵察。雪は深そうだがそれほど難しくはなさそうだ。やるのは2ルンゼダイレクトと決め準備をはじめる。準備が終わる頃にはすっかり明るくなった。
1p目右のガリーを詰めてすぐ右側に3Mほどの壁。登ると小さなテラス。氷はなくベルグラですらない。残置のこ汚いスリングとハーケンが邪魔くさい。このあたりで上でビレイしていたリードが写真を撮ろうとして手をすべらせ、携帯が其部まで50m近くのロングフォール。さらに3Mほど登ると雪のついたリッジ状だがアックスがかかるところはどこにもない。雪の下は完全にのっぺりとしたスラブ。ステップも効かない。雪にアックスのシャフトを突き刺しながら草付きをまたいでルンゼの真上を左奥へのトラバース。手がかり足がかりがなくて怖い。草を掴んでなんとか抜ける。降雪が増えてきてスノーシャワーが間断なく降り注ぐ。リップ直下のわりあいしっかりとした灌木にビレイ。ロープは40mぐらいでほぼいっぱい。
2p目左にトラバース気味に雪壁のリップを乗っ越すとだだっぴろい雪田。3p目のルンゼ其部までロープが届かずビレイ解除してコンテで登ることにする。雪田は思ったより奥に深く50mのラッセル。雪はやや収まったかに見えた。
3p目岩角に残置のスリング。すでに11時半。登りはじめたのが7時ごろだから4時間も経っている。ギア整理してルート観察しているうちに降雪が増えてきた。そうしている間にも全方位からチリ雪崩が降り注ぐ。野人が登り始めるも降雪がひどくなってきて敗退を決意。クライムダウンして戻ってくるとすぐに大きなチリ雪崩が連続で来た。大きなのがくると2秒ほど完全に視界が真っ白になる。リード中にこれを食らったら確実にフォールするだろう。
途切れることないスノーシャワーの中同時懸垂で雪田を下る。登りで足りなかったロープも下りは伸びて余裕で届いた。ロープを引くが引っかかったのかなかなか動かない。登りかえしも考えたがしばらく奮闘してるうちにさっきまでびくともしなかったのが嘘のようにスルスルと動き出して一安心。
其部まで戻るとさっき落とした携帯がほぼ原型をとどめた状態で発見。さすがにカバーの一部が割れているが液晶などは無事。電源を入れないようにして岩小屋まで戻る。疲労のせいか下りのラッセルがつらい。完全にバテている。
気持ちもすっかり萎えてしまって飯食って帰ることにする。食料も充分に持ってきたつもりがやはり足りなかった。行動食も使い切ってしまっている。ガスだけは充分だったが…。食後にツェルトでウトウトしているうちに体が完全に冷えて寒い。動いているうちは平気だったのにものすごい寒気。バーナーを炊いても収まらない。銀シートをかぶってもちっとも暖かくならずガタガタと震える。ウェアが貧弱なのもあるだろうが疲労で寒さに対抗できる体力がなくなったような感じだ。寒さのせいで休息しても体力を回復するどころかむしろ消耗しているような状態。靴を脱ぐのをめんどくさがらずとっととシュラフに入ってしまったほうが良かったのかも知れない。
どうしようもないので気力を震い起こして出発準備。体を暖めようとそこらを歩き回って運動すると少し暖かくなってきた。出発準備を終えて出ようとするころに香川の2人も帰ってきたので2、3言話す。昨日は2・3間リッジ、今日は左方カンテとのこと。どこに登るのか聞かなかったが明日も登るようだ。この天候で?なんという人たちだろうか。世の中にはおそろしいバカがまだまだいると思い知らされた。
食料とガスは減っている筈なのに濡れてザックが重い。相方の50Lザックに入らなかった分も詰めたので80Lのザックもほぼ一杯。といってもリッドを伸ばせばあと20Lぐらいは入るのだけど。背負った感じは確実に20kgを超えている気がするがそう感じるのは疲れているせいなのかも知れない。帰り道はうっすらトレースはあるものの、沢筋は雪崩れてズボズボ。気温が低いせいか雪質はサラサラしているが埋まる。スノーシューは快適だが少し傾斜のきつい下りは滑って使い物にならず、渡渉前に外してしまった。やはりワカンの方が浮力はないが万能ではある。いつもはそれほど長く感じない帰りの道のりが長い。降雪も止まず気温もさらに下がってきているような気がする。ヘロヘロな状態で休み休み歩く。ザックが肩に食い込んで痛い。ひさしく感じることのなかった痛みだ。歩いていると雪崩れる音がして、少し先を歩いている野人のトレースが目の前で消えた。ただでさえヘロヘロなのにツボ足で雪崩跡のラッセルがきつい。途中、駐車場に戻れる気がしなかったがなんとか戻ることができた。なにもかもがバリバリに凍り付いている。すでに22時ごろ。出たのが18時半ごろだったから3時間以上かかったことになる。
ラストコンビニにたどり着く前に2人とも沈して熟睡。起きたら4時半。やはり疲れていたのだろう。体力不足を痛感する。

反省

体力、体力、体力とにかく体力が足りない。
技術面もそうだが、悪条件下でもものともしないメンタルが必要なんだろう。
今回は氷らしい氷がひとつもなかったのも不満ではある。
出し切った感はあるのだが、そもそも自前のキャパが低すぎる。
3日連続で登り切るPTと居合わせたことで発奮もしたが、より反省も深い山行であった