下悪

先週時間切れというかリードが「手が冷たい」と言って敗退した1ルンに3人で。

ビバーク

前夜集合24時発で2時から入山。小屋の上まで行ったところでB氏の眠気が頂点に達してビバーク。オープンビバークを試みるもどうにも寒い。下はダウンのインナーを持っていたがまだ履いてない。下は正方形に切り取ったZレストと肩幅ぴったりに切ってある三つ折の銀マ。ザックを背中にして横たわるとそれなりに快適。眠れないことはないが熟睡は無理そう。気温は推定-5℃くらい。無風だったが少し風も出てきたのでエマージェンシーシートを出す。もう一枚着るものがあれば耐えられそうだが、だったら薄めのダウンシュラフとかもう少しまともなマットでも持っていく方が良いのだろう。
少しばかりうとうと。モンベルで買った銀シェラフとホムセンで買ったもっとペラい銀袋に入ってる2人も寒さに耐えかねているようなのでついにツェルトを引っ張りだす。銀シュラフのB氏は始めのうちはイビキまでかいて熟睡していたのだが、結露するにつれて冷えに耐え切れなくなった模様。3人とも体脂肪率が低い方だがとりわけ低い野人はさすがに熟睡はできないか。
ツェルトを出して3人でかぶり、バーナーに火をいれるとみるみる暖まる。ツェルトってすげー。雪を溶かしてお湯を沸かし、小屋から持ってきたお汁粉を作って飲む。この時点で5時ぐらい。暖まったのか野人はしばし熟睡。B氏は今度は寝つけぬようだが目をつぶってじっとしている。体を寄せ合うとお互いの体温を感じて暖かい。
夜が白みはじめた頃ツェルトを出る。前日夕方に起きたのであまり眠くない俺、は元気だがB氏は寒さと眠さに耐えかねているよう。火でも起こすかと思って枯れ木を集めるも沢筋ど真ん中でそれほど集まらない。なんとかかき集めた流木の欠片に火をつけようとするも風が強くてうまく行かず、そうこうしているうちに一組目のパーティーが上がってくるのが見え、恥ずかしさもあって断念。その間に野人がツェルトと銀袋で岩の窪みに雪洞もどきを構築していて、B氏がそこに入ってわずかな暖かさを貪っているようだ。その横を他パーティーが何組か登って行くが「なんとバカなことを」と思ったことだろう。なにより俺がそう思った。

出発

やがて完全に夜が明けたので眠たがるB氏をせっついて出発準備。ピッケルを一本だけ出し、アイゼンとハーネスをつけて出る。少し登るとテントがいくつか見えて10人ほどのPTが出発準備をしているところだ。あとで聞いたら労山のスクールだったとか。前日にもう少し上まで来てたら、となんとなく残念な気持ち。ここまで来たからといって別になにかあるわけでもないのだが…。鎖場からの道は先週までの雪もすっかり溶けて土肌が露出している。出会いまでのトレースも、出会いから上のトレースも先週よりかなりしっかりしていて快適だが取り付きまでは急登で息が切れる。ここんとこの不摂生で心肺系がぜんぜんなので登りはつらい。現役の頃に戻ろう戻ろうとしてきたこの10年だったが軟弱ゆえにまったく戻る気配もなし。むしろニート生活で衰える一方だ。
取り付きにおそらく8時ごろ。俺はほとんど寝てない。あとの2人も1時間ぐらいしか熟睡できてないだろう。寝不足で吐き気がして取り付きでへたり込む。
壁を眺めるが先週とかわらず下は悪そうだ。上の氷は良さそうだが、そこまで行ってみなければ確かなことはわからない。いつもどおり野人のリードで登りだす。
1P目、真ん中の細いベルグラに踏跡もあるが悪く断念。左のルンゼから。しかしこちらも氷ほとんどなく、スクリューも打つところがない。左の岩になんとか支点を取って這い上がる。1P目登りきる前に後続一組が取り付きに来るのが見えた。かなりじっくり壁を見ているようだ。ルンゼから無理くり這い上がってベルグラ様の短いバンドを横切り上がったところで1P終了。錆び付いたリングボルトとしっかりしたアンカーがあったがスペースがない。狭い岩の隙間でなんとか体を入れ替えて2P目スタート。出だしは薄めで細い氷。実質ここがF1その上の緩傾斜のルンゼを抜けると少しかぶり気味のF2。F2の状態はかなり良い。先週左のルートから巻いたところにあるアンカーとスリングで2P終了。3P目B氏が登りだす前に後続のリードに追いつかれる。前回硬すぎて断念した氷は今回はかなり良くなっていてアックスもアイゼンもバシバシ決まる。モノポイントがここまで決まる氷ははじめてかもしれん。トラバース気味にF3を乗っ越すと広めのテラス。右は薄い氷柱が垂れ下がっていて左はベルグラのF4。狭い左から登ると氷のナメ。なぜかこんなところにアバラコフの跡が。ここから懸垂したPTでもいたんだろうか。その先は氷柱が段になっていて氷の状態も良いF5。上は雪田になっていて、ロープいっぱいの潅木で3P終了。ここから見るとなんときれいな氷、なんときれいなルートだろう。青みがかった氷の色。そしてこの高度感。天気もちょうど良く曇っていて鈴鹿とも思えない風景だ。4P目、左は4Mちょっとのバーチカル真ん中はやや低い氷柱。右いっぱいまでトラバースすれば薄くて低い氷柱からもいけるだろう。そうこうしているうちに後続のリードに追いつかれセカンドもすぐ下まで来ていたので先を譲ることにする。この2人速いし安定感もあってかなり強そうだ。つるべで登ってきた後続PTのリードがF6で2本目のスクリューを打ったところで1テン。派手に落ちたが無事。スクリューもしっかり効いている。見えなかったがその上でさらに1テン。「ちくしょー」という声が聞こえる。4P終了点のすぐ下のF7がかなり悪いようで苦戦している。さっきので腕を使いきってしまったのかも知れない。もう少しでいけそうに思えたがリップに手がかかったところでフォールするのが見えた。背中からドーンという感じでかなり落ちたようだ。B氏の顔にも恐怖がはしる。アックスと、手袋がアックスを掴んだカタチのままリップに突き刺さっている。骨折や裂傷はなさそうだが腰を強打してかなり具合悪そうだし、あの距離だと相当痛いだろう。ビレイもままならない様子なので残置スクリューと取り残されたアックスは我々で回収することにして先に降りてもらう。俺とB氏も4P目はあきらめてすぐに降りてきてもらうことにした。F7は無理でもF6は登ってみたかったのだがそんなことを言っていられる状況でもない。ずっとリードの野人はさすがにかなり苦労していたようだがなんとかトップアウト。腕を休める時間があったのがかえって良かったかも。トップアウトするなんてほんとに久しぶりだし、マルチピッチの壁を最後まで抜けたのもこれが初めてかもしれない。俺とB氏は途中までだったけど…
日は差していなかったが暖かい日で、懸垂中に見ると氷がみるみる溶けていっている。もう今同じルートでは登れないだろう。来週にはどうなっていることやら…
取り付きでスクリューを返し、後続のお2人は先に下山。ロープ回収にてこずってかなり時間を食ったが俺たちもとっとと下山。もう16時はとっくに回ってる。もっと早く手際よく登れるようにならなければな。
落ちた人は歩くのもかなりしんどいようで小屋までに追いついてしまった。小屋でまた別れ、俺たちは残ってラーメン作って食う。うまい。日も落ちてきた頃に出発。時計みてないが17時ぐらいか。林道をショートカットしようと中道へ抜けるルートを行ってみたがかなりの登高で閉口した。降りてみるとトンネルのすぐ上に出てほっとんどショートカットにもなっていない。なんだこれは!無駄に苦労しただけじゃないか!おそらく分岐からさらに上に登って峰ひとつ越えると中道に出るんだろう。その手前に変なルートがあったのを知らなかったのだ。っていうか例によってまともな地図さえ持ってないので分かるはずもないのだが。
アホなことに「そんなはずはない」と下のトンネルまで戻って確認しに行ったので結局林道をフルに歩くことになってしまった。疲れ果てて車に到着。戻ったのは19時過ぎか。いつもよりもずいぶん早いがなにしろ疲れた。
家に帰って飯を食って寝ようとしたが疲れすぎて寝れない。風呂に入ってさらに飯を食い朝までテレビ見て就寝。夕方起きてさらに炭水化物摂取。体が炭水化物を欲している。まるで体の方でみずから肉体を取り戻そうとしているかのようだ。山を登るためのなにもかもが足りていない。困ったことだ。

反省

前日にビバークなどせず、車中泊して充分に休養をとり、暗いうちから出発していれば後続とカチ合うこともなく、苦労はしても全員トップアウトできていただろう。B氏もなんだかんだいいながらかなりの実力をつけてきているのが実感できる。俺も数年前に比べればかなり登れるようになった実感がある。
ビバークで得るものもそれなりにあったがアホなことして遊んでるから、なにより登るのが遅すぎたせいで、ほんの僅かなタイミングの差で後続に先を譲ることになってしまった。こちらは3人だったのもあって、先を譲る判断も、おとなしく懸垂で戻ることにした判断も間違っていたとは思わない。ただいろんなことがもう少し早ければこんなことを考えずに済んだだろう。
今回は得るものもたくさんあったが反省も多い。B氏のロープワーク。そして俺の体力。リードする技術。ウェア。なにもかもが足りない。
こんな体力で、働いて、そのうえ山に登れるんだろうか?