EV関連覚え書き その2

日本がEV普及率100%になったとき、必要とされる電力量はどれぐらいになるのか 前回の続き

前回は単純に総走行距離にカタログ電費をかけ合わせて必要電力量を推定したが、今回は消費した燃料のエネルギー量から必要電力量を推定することを試みる

ということでまずは最新の統計(自動車燃料消費量統計年報(令和4年度分))を参照

燃料消費量・走行キロは令和3年度(2021年度)よりは増加しているものの、前回参照した令和元年度(2019年度)(※下図)の統計に比べ、ともに減少している

軽油はそれほど変化はないが、ガソリン・LPG・CNGの走行キロ・燃料消費量はともに減少
これは燃料費が高騰している影響も少なからず有ると思われるが、とりあえずこの令和4年度(2022年度)版の統計を元に話を進めていこう

統計から見る燃料自動車の平均燃費

まず燃費だが、ガソリン車で12.972km/L、軽油車で4.824km/Lとなっていて、これは前回のガソリン12.508km/L、軽油4.671km/Lより高く(燃費が良く)なっている
日本の自動車保有台数*1は2023年3月末時点で乗用車6195.3万台、貨物車が1451.6万台、乗合車(バス等)が21.2万台あるが、それらの平均と考えるとかなり良い数値に思える

ガソリン・軽油の総エネルギー量

資源エネルギー庁の発表しているエネルギー源別標準発熱量*2によれば、ガソリン1Lあたりの真発熱量(低位発熱量)*3は31.32MJ/L(プレミアムガソリンで31.80MJ/L、レギュラーで33.25MJ/L)、軽油で35.77MJ/L

油種 総発熱量(高位発熱量)(MJ/L) 真発熱量(低位発熱量)(MJ/L) 真発熱量電力換算値(Wh)
ガソリン 33.36 31.32 8,700
プレミアムガソリン 33.75 31.80 8,850
レギュラーガソリン 33.31 31.25 8,680
軽油 38.04 35.77 9,936

1kWh=3.6MJなので、ガソリン1Lのエネルギー(真発熱量)は電力換算で8,700Wh、軽油1Lでは9,936Whに相当する
が、もちろんそのエネルギーのすべてが走行に使われているわけではない
今の技術では正味最高熱効率はガソリンで51.5%、ディーゼルで50.1%にもなるらしいが*4、今走っている内燃機関自動車の熱効率の平均はどれぐらいになるのだろうか

ICEとEVの効率の比

内燃機関自動車の熱効率の平均を出すのは難しそうなので、ICEとEVの効率の比を考えてみる
ガソリンとBEV、両方の設定がある日産デイズ/サクラと三菱ふそうキャンター/eキャンターの燃費と電費を比較し、ガソリン車とディーゼル車それぞれの燃料消費量と、それぞれをEV化した場合の電力消費量の比率が分かれば、ICEをすべてEVに置換したときの必要電力量のごく大雑把な概算を出すことができるはずである
まずICEのデイズ(ノンターボ・2WD)のWLTC燃費が21.2km/L、EVのサクラのWLTC電費が124Wh/km
距離1kmあたりのデイズの燃料消費は0.04717L/km
ガソリン1Lあたりの発熱量を8,700Whとして8700x0.04717を計算すると410.3Wh

車種 燃費/電費
デイズ 410.3Wh/km
サクラ 124Wh/km

デイズの燃料消費量を電力に換算したものとサクラの消費電力の比は

124 / 410.3 = 0.3022...

約30%


同様にeキャンターとほぼ同車格のキャンター(2WD・標準キャブ・4t積・車両総重量6.845t)の重量車モード燃費は8.60km/L、eキャンターの電費(JE05)が1.92km/kWh
距離1kmあたりの燃費/電費はそれぞれ0.1163L/km、520.8Wh/km
軽油1Lあたりの発熱量を9,936Whとして9936x0.1163を計算すると1,155.5Wh/km

車種 燃費/電費
キャンター 1,155.5Wh/km
eキャンター 520.8Wh/km

キャンターとeキャンターの燃⇔電比は

520.8 / 1155.5 = 0.4507...

約45%

トラックの場合の燃⇔電比率が高く出るのはディーゼルエンジンの効率が高いからだろうか、それともEVトラックの電力効率が乗用EVよりも低いせいだろうか

燃料消費量から必要電力量を推定してみる

まずガソリンの燃料消費量が438.57億L(43,857千kL)、燃⇔電比30%とすると

43,857,000,000L x 8.7kWh x 0.3 = 114,466,770,000kWh

約1,144.6億kWh

走行キロ5,688.99億km(568,899百万km)で割ると201.2Wh/km(4.97km/kWh)


軽油が消費量245.89億L(24,589千kL)、燃⇔電比45%として

24,589,000,000L x 9.936kWh x 0.45 = 109,942,336,800kWh

約1,099.4億kWh

走行キロ1,186.17億km(118,617百万km)で割ると926.8Wh/km(1.08km/kWh)

まとめ

前回の推計では、ガソリン車と置き換えたEVがすべて日産リーフ並みの電費(155Wh/km)なら必要電力量は961億kWhと仮定していたが、今回の統計を元に同じ計算をすれば881.8億kWhということになる
燃料消費量を元にした今回の概算では1,144.6億kWhと、それに比べ29.8%ほど高い数値になった
計算上の推定電費201.2Wh/km(4.97km/kWh)はそれほど非現実的な数字というわけではないが、ネット上で散見される各種EVの電費報告で5km/kWhを切るものは見かけないことを考えると、実態としてはもう少し低い(良い)数字になりそうではある
今回、日産サクラのカタログ数値から燃⇔電比を30%と計算したが、ガソリン燃料自動車全体の熱効率の平均は実際にはもう少し低いのかもしれない


また今回は、前回は考慮しなかった軽油の分の電力量も出してみたが、これはすべての軽油を使用する車両がトラックであるという前提で計算している
しかし実際には軽油で走る乗用車もあるのでその分正確さには欠ける
ただ統計上の燃費は軽油で4.824km/Lであるから、軽油の消費量のほとんどはトラックやバスなどの輸送手段に用いられると想定してもそれほど不都合とは思われない

トラックの場合の燃⇔電比45%という数字は、推計の方法も含めそれほど信頼のおけるものだとは考えていないが、その数字で軽油を電力換算した場合の必要電力量1,099.4億kWhは思った以上に大きい
仮に燃⇔電比が30%だったとしても733億kWhである


前回も言ったように日本の発受電電力量は約10,000億kWhであるから、ざっくりガソリンで1割、軽油で1割、合わせて2割に相当する電力が必要、ということになってしまう
推計方法がいい加減なのでもちろん正確ではないが、だとしても「現在燃料を用いて行っている輸送をすべて電力に置き換えた場合」の概算としてそれほど荒唐無稽であるとも思われない
多少上下するにしても受発電電力量全体の15~20%程度の電力は必要になるのではないだろうか


ちなみに令和2年度の鉄道統計年報*5によれば、鉄道全体の消費電力量の合計は165.3億kWhである