このように,大韓民国において「慰安婦」と「洋公主」は歴史的な節目ごとに特定の「記標」〔記号表現,シニフィアン〕として登場してきた。それぞれ異なる文脈と目的から出発するが,韓国の左派/右派陣営には,女性の身体を借りて民族の自尊心という名目により日本帝国主義アメリカ帝国主義の「残忍さ」を告発しているという相同性が見られる。この時,明示的に表現されるのは「被害者=女性」であるが,実質的な語り手は隠された「発話者=主体=男性」である。女性の身体は植民地主義帝国主義の残忍な行為が行われる場所であり,民族の自尊心を発話する道具となるが,女性の身体そのものは沈黙させられたまま発話者の主体位置を確認するための象徴としてしか使われない。

日本軍「慰安婦」と米軍基地村の「洋公主」─植民地の遺産と脱植民地の現在性─