十三人の刺客(2010)

十三人の刺客<Blu-ray>通常版

十三人の刺客<Blu-ray>通常版

関係ないが今のオフィスがあるレジデンスには1Fにシアタールームがある。映画好きのインドらしい。日本から持ってきたDVDをそこで観た
前に仲代達也のTV版を観たことがあったので正直まったく期待してなかったが、なかなか丁寧な絵作りとしっかりした殺陣で存外の収穫であった。特に前半の照明ワークや賭場のシーンの描き方は細かい部分ながらも印象深い。しかしオチが良くない。伊勢谷雄介の最後に出てくるカットも完全に蛇足でいらなかったな。


いくつかオリジナルにないシーンがあって、刺客側の設定も、最後のオチもちょっと変えられている。残酷描写が強化されてシグルイ色が強くなってるのでまあそれはそれでアリだ。
ここでいう討たれ役の殿様は「もうこいつ殺すしかないだろjk」みたいな役どころなので暗愚で残虐でハナ持ちならないクソ野郎の狂人でなければならず、前半でそれはもう非道の限りを尽くすのであるが、結局討つ側も討たれる側も「生きる目的探し」というか「死に場所探し」野郎どもなので、勝ち負けなどハナからない、というのがこのプロットの良いところ。というより「生きて生きて生き抜いてやるぞ!」みたいな決意を持って戦ったのは唯一、敵方家老鬼頭半兵衛のみで、陶酔し切った世直し野郎どもにせっかく掴んだ立身を粉砕されてしまってさぞかし無念であったろう。警護対象に生き延びようという気が皆無だったのも彼の不運である。
そもそも殿様1人を殺すつもりなら島田新佐衛門ほどの男ならいくらでもやりようがあった筈で、普通に考えて200人全部斬り殺す必要はない。せっかく分断したのに何をやってるのかと。手段を選ぶなと言うわりになんのかんの理由をつけて戦争したいだけなのである。まあその乱闘を描くために作りこまれたプロットなので当たり前っちゃ当たり前なのだが。あと仕掛けが大掛かりすぎてどうしてもギャグっぽくなってしまうのが残念。そのワリに爆薬を使って効率的に人を殺す手段を選ばず、あくまで刀で決着つけようとするあたりが完全に自己陶酔というか、生き延びる気ゼロというか。だったら最後に生き残った山田孝之も死ぬべきだったろうという妙に納得行かないオチと、謎の吹石一恵推しでそんな終わりでいいんかい!と全力で突っ込みたくなる。


まあリメイクとしては最近の時代劇の中では出色の出来で、時代劇もときどきこうやって動態保存していかないとなぁと切に思います。ここまで撮れるなら水戸黄門以外でゴールデンでちゃんと時代劇やって欲しいよなぁ。殺陣もそうだけど刀の扱い全般にまともで伊原剛志って居合経験者なのね、なるほど納得。松方弘樹はさすがの貫禄で、昔より体の動きは重くなったような印象だがキレのある太刀さばきは見事の一言。稲垣吾郎は今回おいしい役だったなぁ。若侍どもはみんな一緒に見えるのと、とりあえずセリフが聞きとりづらいからなんとかしろ。伊勢谷は設定自体が完全に蛇足でそこで目立たせる必要あったんだろうか、しかし華のある役者ではあるのでもっと違った役回りで彼の魅力を存分に引き出してほしいこの映画の中ではなく。役所広司昔から嫌いじゃないというかむしろ好きな俳優なんだけど、最近ちょっと「とりあえず役所」みたいな感じの起用が多い気もするし、そういう意味で改めてキャスティング見ると「とりあえず人気若手俳優詰め込んどきましたんで」って感じで安易さはあるものの、それなりになってるのはやっぱ監督の力量なんだろうか?あと仲代達也もそうだったけど「何をやっても役所」なんだよなぁ基本。まあそれはそれでよし!平幹二郎松本幸四郎市村正親と大御所の安定感が半端ないのでやっぱこういうおっさん好きだわ俺。今作の松本幸四郎は地味ぃーな役なんだけどほんとすごい。ほんと「もう俺死にてえ、消えてなくなりたい」って感じなんだよ。手足ない子も面白かったけど、ここは役者の演技力で魅せるべきだったんじゃねえのかなって思います。
この映画細かい絵作りがほんと丁寧で乱闘になっちゃうとあんま関係なくなっちゃうのがかえって勿体なく感じられるぐらいでした。心情描写によって微妙に配色変えるのとか別に目新しくないんだけど、やりすぎない程度に効果的で良いです。提灯の火が消えていくシーン。島田宅での鬼頭とのやりとりのシーンとかも実に良く計算されてるなぁと。まあ普通というかまっとうな映画ってこういうもんなんだよって言われたらそうなのかも知れないけど。
監督は三池崇史。翌2011年には『切腹』のリメイクの『一命』撮ってんのね。こっちも観たいねぇ