サマーウォーズ

サマーウォーズ スタンダード・エディション [Blu-ray]

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整理しよう、つまりこういうことだ

  1. OZという公的サービスの提供も含んだソーシャルネットワークがあって世界のかなり多数の人と機関がこれを利用している
  2. そこへある一人の日本人技術者が(独力で?)開発したハッキングAIが管理権限のパスコードを破って侵入
  3. AIは4億人のアカウント奪い、奪ったアカウントを利用して社会を大混乱に陥れる


ここまででもかなりツッコミどころ満載だ
では順番につっこんでいこう

OZというシステム

この映画で言っていることはこうだ

  • OZの管理権限を使うと世界中のあらゆるインフラに混乱が引き起こせますよ

そういう設計になっているということらしい。実に危険だ。「非常に高度なセキュリティを誇っている」としてもかなり危なっかしいし、実際劇中でもかなり危なっかしい事態を招いている。つまりこういう社会の設計は根本的な脆弱性を元から抱えている。これは高校生の数学オタクとも旧家生まれの花札が得意という以外はいまいち地味なヒロインとも古風なお婆ちゃんともなんの関係もない。今回のことがなかったとしてもいずれ深刻な事態を招くのは目に見えている。
そもそもこれほど多数の国や地域が「アカウントの一元管理」という国益を揺るがしかねない権限を特定の組織に委ねるという事態が異常なのであって、そういう事態を看過してきたことに問題がある。仮にこの映画の世界が今私たちがいる世界と同じ価値観で構成されているような"世界"であればこのような体制を見過ごすということはあり得ない。
ということはつまり、この世界においては「そもそもまともな考えができる人間が存在しない」か「なんらかの理由でそのような体制を敷かざるを得なかった必然性がある」ということになる。でなければ説明がつかない。
そういう目でこの映画を眺めてみると、確かにあまりまともな考えの人間は登場しない。主人公は流されやすいがどこまでも負けを認めない(現状認識に問題あり)数学オタク。ヒロインはそもそも考えの足りない女子高生。他にも役所から勝手に個人情報を引き出すおばちゃんとか納入するはずのスパコンを勝手に使う電気屋とか隊の機材を無断で?持ち出す自衛隊員とかどうみても考えの足りない警官とかネトゲがとりえの中学生とか家の金を持ち逃げした挙句にハッキングAIとかいうどう見ても怪しげな代物を開発するおっさんとか薙刀振り回して養子を殺そうとする死にかけの婆さん(そのハッキングAIはあなたのお金で作ったんですよ?おばあちゃん)とかイカ釣り船をわざわざ運んできて池に浮かべるおっさんとかだ。だいたいこいつらそろって庭に車で突っ込んでくるあたりどうみてもまともじゃない。これで納得だ。
もうひとつの「必然性」について考えてみよう。OZは「高度なセキュリティ」を謳っているものの、そのパスコードは高校生が一晩で(しかも手計算で)あっさり解読できるほどだし、世界で55人もの人間がこれも一晩で解けてしまうぐらいだからたいした暗号技術ではないことははっきりしている。おそらく、この世界はなんらかの理由でわれわれのいる世界よりもセキュリティ技術が異常なほど未発達なんだろう。「たいしたことない」というのはわれわれの世界の価値観であって、この映画の世界においてはそれは十分「高度なセキュリティ」と言って差し支えないと思われる。つまりOZ以外のネットはあまりに脆弱でおよそセキュリティなどというものは存在せず、それが故に全世界的にOZに依存せざるを得ない必然性が生まれたというわけだ。やれやれ、なんという世界だ。しかしこれでOZという非常に巨大で社会に深刻な影響を及ぼしかねないシステムのメンテナンスをたかが高校生ごときのアルバイトに任せるという設定にも納得がいくし、AIにシステムを乗っ取られたあとの運営のあまりにも無策で不手際な対応にも、米軍が「実証実験」という名目でハッキングAIを走らせるなんていう暴挙にも納得がいこうというものだ。なにしろこの世界にはまともなセキュリティというか危機管理という概念はすっぽり抜け落ちて存在しないんだから。(つづく)