音楽の映画

めぐり逢う朝(Tous les matins du monde)1991


老音楽家が、奏でるレクイエムによって亡き妻と再会するこのシーンでは、白い巻き菓子(ゴーフレット)やワインのボトル、グラスの形に至るまでリュバン・ボージャン静物画『巻き菓子のある静物*1が完璧といって良いほどに再現されている。このシーンはまた、解釈に悩むこの絵についての一つのロマン溢れる解釈をも指し示している。ただし、この絵が描かれたとされている1630年ごろは、1656年生まれのマレーはおろか(生年不明ながら1630〜40年ごろの生まれとされる)サント=コロンブも生まれたか生まれないかという頃であり、老いた音楽家が亡き妻を偲んで描かせたという解釈は、残念ながらちょっと時期があわない。


監督は『真夜中の刑事』のアラン・コルノー。コルノーの代表作といって良い作品
ジェーラル・ドパルデューと息子のギョーム・ドパルデューがそれぞれ宮廷音楽家マラン・マレーの晩年と青年時代とを演じている。マラン・マレーの師匠サント=コロンブに、『イヴォンヌの香り』『パトリス・ルコントの大喝采』のジャン=ピエール・マリエール
音楽のジョーディ・サヴォール(ジョルディ・サバール[Jordi Savall])はスペイン、カタルーニャ出身。古楽器であるヴィオール(viol)の演奏家であり、グラミー賞に2度ノミネート。この映画でセザール賞を獲得している。


さながらルーベンスレンブラントラ・トゥールの絵画を思わせる室内の陰影描写がすばらしく、卓越した照明と色彩のコントロールによって作り出される独特の質感がこの映画のバロックな骨格を静かに支えている。音楽ももちろんすばらしいが、撮影技術においても特筆すべき作品の一つ。撮影は『愛を弾く女』のイヴ・アンジェロ(Yves Angelo)

めぐり逢う朝  HDニューマスター版 [DVD]

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参考:
お探しのページが見つかりませんでした|駒沢女子短期大学付属 こまざわ幼稚園

無伴奏シャコンヌ(Le Joueur de Violon)1994


なんと、国内版はDVD化されていないではないか

無伴奏「シャコンヌ」 [VHS]

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監督は他にこれといって作品のないシャルリー・ヴァン・ダム。主演は『男と女II』『ひとりぼっちの狩人たち』『ルビー&カンタン』など、どちらかと言えばバイアクターの印象が強いリシャール・ベリ。製作にルコントとの仕事が多いルネ・クレトマン。
この映画あらすじは一応あるものの、プロットにそれほど意味はなく最後の最後にぶちかますバッハのシャコンヌ(無台詞20分)の破壊力だけですべてを成立させてしまうというなんともロックな映画。バイオリンがここまで破壊的な楽器だったとは!
かつて栄光に浴した芸術家が、求道のあまり世を捨て棄民にまみれて地をさすらう、フランス人はこの手の物語が大好きだ。理由なんてどうでもいい。絶望だ、絶望こそが芸術の源泉。栄光なんてクソ食らえ!未来なんて知ったこっちゃねえ!
だからラストで地下道に響きわたるシャコンヌは、けして救済でも希望でもないのである。かといって絶望の叫びでもない。それはけして寄り添わず、癒しもせず、救いを求めることもない。絶望の淵においてなおすべてを切り裂くひとつの力強い決意、いや、逃れえぬ果てなのだ。


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カストラート(Farinelli il Castrato)1994

90年代初頭は音楽映画が多かったのかどうなのか

有名なので詳しいあらすじは必要ないと思うが、カストラートとは声変わりする前の少年の睾丸を除去し美声のために生殖を捨てた男性歌手のことである(セックスはできる)*2。非人道的でもあるがピーク時には4千人を数えたといわれるのは、一つには一流のカストラートともなれば巨額の収入を望むことができたため、もう一つには教会が宗教上の理由で男の美声を欲したためで、自ら、あるいは親によって率先してカストラートとなった者もたくさんいたことだろう。同性愛を否定するカトリック教会が19世紀に至るまでカストラートの存続を容認していたことからもその美声の抗いがたい魅力が知れようというもの。
この映画では常人には発声不可能な音域を再現するために男声と女声をコンピュータで合成している
ずいぶん昔に見たのでおぼろげだが、思っていたより音楽は少なかったような気がする。ファリネッリたちブロスキ兄弟よりも、ヘンデルの音楽にかける執念が印象に残った。
監督はベルギー出身のジェラール・コルビオ、主人公ファリネッリ役のステファノ・ディオニジは『暗い日曜日』で問題の曲を作曲するピアニスト役をやっている。ハイドン役のジョローン・クラッベはオランダ出身の俳優でポール・バーホーベンの『4番目の男』とか『不滅の恋/ベートーヴェン』ではベートーベンの秘書役をやったり『逃亡者』では主人公のハリソン・フォードを嵌める黒幕の医者をやったりと以外に多作なバイアクター
1995年のゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞。上の2作と違って日本でも劇場で見た人が多かったんではなかろうか

カストラート [DVD]

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その他

音楽映画クソいっぱいあるので上にも出たけど『不滅の愛/ベートーヴェン』や『暗い日曜日』とかあえて入れなかった『アマデウス』とか、『パガニーニ』や『トスカニーニ』、『マーラー』。ジャズだと『グレン・ミラー物語』『ベニー・グッドマン物語』『5つの銅貨』、ビバップ以降で『ラウンド・ミッドナイト』『バード』『Ray』その他もろもろもろもろ


まああれだ、好きなの観とけばいいんじゃないかな