あれから

今から12年前、金目川の土手を歩きながら「世界は美しい」と思っていた
そう、ちょうど今と同じくらいの時期
空は曇っていて、川べりの色褪せた草が秋風に揺れていた
細い橋を渡り、タバコ屋の角にある歩道橋の傍を通るあの道
金目川ぞいに平塚へと走る黄色いバスの、バス停の向かいに当時住んでいたみすぼらしい借家はあった
愛しい人は遠く、20歳の私はまだ何者でもなく、未来はどこまでも不確定だった
自分がどうなるのか、どこへ行くのかさえはっきりとしていなかったが、あの時目に映った世界は、どこまでも美しく、輝いて見えた
あの頃、想像もしなかったような未来が、たくさんの幸せや不幸せが、いくつもの出会いと別れが、待ち受けているとも知らずに


今、同じようにコンビニからマンションへと帰る道で、同じことを思う
世界は美しい、こんなにも…
あの時と同じように、不確定なままの未来を抱えて…