岩波少年文庫発刊に際して

一物も残さず焼きはらわれた街に、草が萌え出し、いためつけられた街路樹からも、若々しい枝が空に向かって伸びていった。戦後、いたるところに見た草木の、あのめざましい姿は、私たちに、いま何を大切にし、何に期待すべきかを教える。未曾有の崩壊を経て、まだ立ちなおらない今日の日本に、少年期を過ごしつつある人々こそ、私たちの社会にとって、正にあのみずみずしい草の葉であり、若々しい枝なのである。 この文庫は、日本のこの新しい萌芽に対する深い期待からうまれた。この萌芽に明るい陽光をさし入れ、豊かな水分を培うことが、この文庫の目的である。幸いに世界文学の宝庫には、少年たちへの温かい愛情をモティーフとして生まれ、歳月を経てその價値を減ぜず、國境を越えて人に訴える、すぐれた作品が数多く収められ、また、名だたる巨匠の作品で、少年たちにも理解し得る一面を備えたものも、けっして乏しくはない。私たちは、この宝庫をさぐって、かかる名作を逐次、美しい日本語に移して、彼らに贈りたいと思う……

吉野源三郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E9%87%8E%E6%BA%90%E4%B8%89%E9%83%8E


旧版の岩波少年文庫の跋文?奥附?には必ずこの文が載っていた
いざ探してみるとなかなかヒットしないな。3ステップぐらいかかった