いまだ鳴り止まぬコール

我々が、あえて我々と言わせてもらうが、我々が失ったのは、一人の優れたレスラーというだけではない、もちろん、いちプロレス団体の社長でもない、我々が失ったのは日本の、日本のプロレスの大きな一部分だ
日本プロレスにおける「正統」を、唯一人その正統を受け継ぐレスラーとしての三沢光晴を、後にそれを継ぐ者もいないまま我々は失ってしまった
それは「損失」などではない、「損失」などといって測りうる類のものでは断じてない
ただ、我々は失ってしまったのだ。アメプロでもルチャでもない、日本のプロレス、というものを
それは、失うにはあまりにも大きく、あまりにもかけがえなく、あまりにも突然過ぎた
今まで、当たり前にそこにあった「三沢光晴」はもういない
いないのだ!
だから今、我々はその失ったものを"思う"ことも"感じる"ことも"悲しむ"こともできずに、ありていに言えば「良くわからない状態」に落とし込まれている
ある日突然、半身をもがれたようなものだ。理解などできる筈もない
今の我々はただ、それぞれの時間を止めて「それぞれの三沢光晴」を反芻する行為に没頭しているだけなのだ。それも無理からぬことと言えばそれまでだ
今はまだ、それでいい
他には、どうしようもない
いずれ時は動き出し、すべてを押し流すだろう




ああ…


慎んで"レスラー"三沢光晴の冥福を祈る
我々の生ある限り、忘れることはないだろう
そして失われたものは、二度と帰っては来ないだろう…


いつものようにスパルタンXが流れ、会場からは、あふれんばかりの三沢コールが鳴り響いている。けして鳴り止むことなどないかのように…いつまでも…いつまでも…