春が好きでそれはせつないという話

春が好きだ
春のたそがれが好きだ

冬のあいだ、あんなに冷たい金属質な光をなげやりに投げつけては、その鋭い針ですべてを寒々しくつらぬいていた太陽も、この頃はまるですべてが愛おしいとでも言うかのように慈愛に満ちた面持ちで、なにもかもを包み込むようなやわらかい光をおだやかに投げかけている
その光が、まるで水に一滴の牛乳を溶いたようにわずかに白濁した春の空気をピンク色に染めて、行きかう人々の群れが、その幸福な時間をかき分けて歩いていくのを見ると、せつないような幸せなような、取り残されてしまったような、そんな気がする

高速道路は、ちょうど太陽に向かって伸びていて、今、まさに霊仙と伊吹の間へと落ちていく巨大な赤球が、あいかわらず優しげな笑みをたたえたまま、現場へと向かうその道程をややオレンジがかった"イエロー・ブリック・ロード"へと変えていく
助手席で僕は、その終わっていく至福に身をゆだねながらも、やがて来る宵闇に思いをはせるのだった