芸術

芸術は作り終えた時ではなく受け手の中で始めて成立する。芸術とは作り手側の作業ではなく受け取り手側の作業である。受け取り手のいない作品は芸術として成立し得ない。もっとも作者を除けば、すべての鑑賞者は"2番目の鑑賞者"でしかないわけだが…
仮に閉ざされた(金庫のような)箱の中に作品があって誰も目にすることができなければ、"その作品"は芸術としては完結していないということになる。無論その"行為"を芸術と看做すことは可能だが(今どきそんなポスト・モダンじみたことをやっても寒いだけだろう)その"作品"についてではない。作品を「問いかけ」とするならば、受け取り手のいない作品は何もない空間に向かって問いかけるのと同じとも言える。「答え」が返ってくるかいなかに関わらず、「問いかけ」には「問いかけられる人」の存在が不可欠である。「芸術=コミュニケーション」ではない「芸術は作品を媒介として成立するコミュニケーション」ではない。「作品を作る」ことが「作り手の作業」ならば、作品を解釈(ただ漠然と感じるというだけにしても)するのは「受け手の作業」であり、芸術とはその「作業の質」から生まれるもので、かつその「作業」の中にしか存在しない。